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TNFSF15が細菌叢を介してクローン病のリスクを高めていることを発見』

2017年03月21日掲載


北里大学医学部解剖学研究室の中込滋樹博士研究員(現:Trinity College Dublin, Assistant Professor)(共同筆頭著者)及び太田博樹准教授、琉球大学医学部附属病院第一内科の(故)知念寛医員(共同筆頭著者)、光学医療診療部金城福則前部長、外間昭部長、伊良波淳医員、統計数理研究所の間野修平准教授、琉球大学大学院医学研究科感染症・呼吸器・消化器内科学講座の藤田次郎教授、人体解剖学講座の石田肇教授及び木村亮介准教授を中心として東京大学などで構成される共同研究グループは、沖縄のクローン病患者においてTumour Necrosis Factor Superfamily Member 15 (TNFSF15)における遺伝的変異が細菌叢の構成を変化させることにより、クローン病の発症リスクを高めていることを明らかにしました。本研究成果は国際専門誌「Human Genetics」にオンライン掲載されています。 (掲載はこちら)

クローン病は遺伝性が高く、消化管において慢性的な炎症が生じる疾患です。そして、その発症には、腸内におけるヒトの免疫システムと腸内細菌叢の相互作用が重要な役割を果たしていると考えられています。これまで、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphisms; SNPs)【注①】を遺伝マーカーとして疾患に関連する遺伝的変異を同定する全ゲノム関連解析がヨーロッパ人におけるクローン病患者と健常者を対象に広く行われてきました。その結果、200個以上の遺伝的変異がクローン病の発症に関連することが報告されています。その多くが免疫機能に関係する遺伝子、あるいはその近傍に位置していることから、腸内で共生する細菌に対して、ヒトの免疫反応を調節する遺伝子が機能しなくなることにより、免疫システムの恒常性が崩れ、腸内において炎症が引き起こされていると考えられています。本研究では、クローン病におけるヒトの遺伝子と細菌の相互作用を明らかにすることにより、予防及び治療における新たなバイオマーカーを同定することを目指しています。

本研究グループは、琉球大学医学部附属病院においてクローン病患者、クローン病と同じ炎症性腸疾患に分類されている潰瘍性大腸炎患者、健常者からヒトのゲノムDNAと口腔内細菌叢のDNAを採取しました。そして、本研究では試料提供者の負担をできるだけ軽減するために、血液や糞便ではなく唾液を用いました。また、口腔内における細菌組成は腸内においても反映されていることがこれまでの研究から示されています。そこで、本州においてクローン病に関連することが報告されているTNFSF15【注②】に着目し、口腔内における細菌叢を手がかりに疾患における遺伝子と細菌の相互作用を検証しました。TNFSF15における6個のSNPsに関して患者と健常者で頻度を比較したところ、クローン病患者ではSNPサイトにおける一方の塩基(アレル)が健常者と比べて約10%ほど高い頻度で存在しており、沖縄におけるクローン病においてもその発症リスクを高めていることが明らかになりました【図①】。その一方で、潰瘍性大腸炎患者における頻度は健常者とほとんど変わらず、TNFSF15は炎症性腸疾患の中でもクローン病にのみ関連することが示されました。本研究グループは、2014年に口腔内細菌叢がクローン病患者と健常者で異なることを明らかにしました【文献①】。特に、Prevotellaと呼ばれる細菌群【注③】がクローン病患者において有意に高く存在することを示しました。そこで、本研究においてTNFSF15Prevotellaとの関連性を調べたところ、TNFSF15のリスクアレルをもつことにより、Prevotellaの量が増加することが明らかになりました【図①】。一方,TNFSF15の発症リスクはPrevotellaの量によって異なり、Prevotellaの量が少ない場合は発症リスクがほとんどなくなることが示されました【図①】。

本研究における成果は、たとえTNFSF15のリスクアレルをもっていたとしても、細菌組成を制御することによってクローン病の発症リスクを軽減させることができることを示唆しており、臨床的にも重要な知見であるといえます。

【論文原題】
 Confounding effects of microbiome on the susceptibility of TNFSF15 to Crohn’s disease in the Ryukyu Islands

【発表雑誌名】
 Human Genetics, Springer (DOI: 10.1007/s00439-017-1764-0)

  • 【注①】DNA配列において遺伝的変異が起こった結果、2つの異なる塩基(例:グアニンとチミン;G/T)が集団中に多型として存在することを示しています。
  • 【注②】TNFSF15は免疫システムにおいてリガンドとして受容体に結合することにより、細菌感染に対する免疫反応を活性化させることが知られています。
  • 【注③】Prevotellaは腸内細菌叢において代表的な細菌属の1つです。腸内の上皮細胞は粘膜を保護するためにムチンと呼ばれる糖タンパク質を生成し粘液を構成しますが、Prevotellaはこのムチンを分解する能力をもつことが知られています。そのため、Prevotellaの量が増加することによってムチンの分解が促進され、上皮細胞が腸内細菌叢にさらされることにより、慢性的な炎症が引き起こされている可能性があります。

【参考文献①】
 タイトル:Dysbiosis of salivary microbiota in inflammatory bowel disease and its association with oral immunological biomarkers.
 著者:Said HS, Suda W, Nakagome S, Chinen H, Oshima K, Kim S, Kimura R, Iraha A, Ishida H, Fujita J, Mano S, Morita H, Dohi T, Oota H, Hattori M.
 発表年, 掲載誌, 巻及びページ:2014年, DNA Research, 21(1):15–25.

【図①】

TNFSF15が細菌叢を介してクローン病のリスクを高めていることを発見